行列のできる法律相談所(1)

ライバル店の熱い戦いとは…

事案の概要は、近所同士で互角の実力を持つラーメン屋2軒の内の1軒が「この町で一番うまい店」という看板を出して、もう1件のラーメン屋を閑古鳥状態にしたということである。
恐らくは不正競争防止法辺りの問題と思われる。

私の意見

さて、不正競争防止法第2条において、不正競争について定義されている*1
しかし、不正競争防止法において、不正競争として定められているのは主にドメイン名を含む商標使用や営業秘密の剽窃ということであり、本件で問題になっている看板の表示には該当しない。
そこで、今度は景品表示法*2を調べてみる。同法第2条第2項において、

この法律で「表示」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行なう広告その他の表示であつて、公正取引委員会が指定するものをいう。

とあるが、これこそ将に本件で問題になっている「この町で一番うまい店」という表示の看板のことを指す。
また、同条第4条第1項にて

事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号に掲げる表示をしてはならない。
 一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示すことにより、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示
 二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるため、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示
 三 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認めて公正取引委員会が指定するもの

と定められている。
さて、この各号を本件に当てはめてみる。
まず、第4条第1項第1号について、本件の「この町で一番うまい店」という表示が「一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示」していると文理上言える。
しかし、この「実際のものよりも著しく優良である」というのは相手との比較に関することを定めた同条同項第2号が存在することを鑑み、自らの提供している商品との比較で論ずべきであると言える。
本件の場合は当該ラーメン屋のラーメンの品質が隣のラーメン屋と互角であることを勘案し、当該ラーメン屋のラーメンの品質が看板の内容に比して「実際のものよりも著しく優良である」とは言えない。
よって、「この町で一番」という表示は同条同項第1号違反とは言えない。
次に、同条同項第2号について、本件の「この町で一番うまい店」という表示が「実際のもの又は当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるため、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示」と言える。
本件の場合、2軒のラーメン屋同士は互角の実力を有するライバル店同士で、そのうちの一方が「この町で一番うまい店」という表示を行うのは将に「取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるため」の表示と言える。
ところで、東京高裁平成16年10月19日の判例及び前橋地裁平成16年5月7日の判例においては、ライバル関係にある電気量販店*3の広告表示が問題となっており、同条同項同号に違反しているかどうかで本件に類似している。
しかし、当該判例においては一方*4がもう一方*5を名指しで「安くする」という表示を出したことが当該条文の違反内容であって、本件のように「この町で一番うまい店」というような表示ではない所が違う。
よって、「この町で一番」という表示は同条同項第2号違反とは言えない。
したがって、「この町で一番うまい店」という表示は不当表示に当らないといえる。

番組の結論

「この町で一番うまい」の看板が違法になる可能性は30%である。
但し、「隣のラーメン屋よりうまい」と比較する看板を書いた場合、違法となる可能性が高いとしている*6

北村弁護士の意見:違法ではない

意見の趣旨は当該ラーメン店の個人的主張に過ぎないということ。
他社との比較ではないのだから問題ないということだろう。
「この町で一番うまい」というのは上手いキャッチコピーだと評価していた。

住田弁護士の意見:違法である

意見の趣旨はこれは不当表示を防止する法律*7に抵触するということ。
「客観的に正しいものでないと問題である」ということであるが、不当は表示について定めた景品表示法第4条第1項において、第1号は誇大広告の禁止、第2号は他人との比較での誇大広告の禁止ということを定めたに過ぎず、「正しい」はともかく、これらは主観的か客観的かということは全く関係ない。
因みに、本件は景品表示法第4条第1項第2号に該当する疑いがあるが、「この町で一番」というのは一応他人との比較という要素は含んでいるものの、同条文は比較級表現*8の禁止が趣旨であって、本件のような最上級表現の禁止ではないとも言える。
仮に、「この町で一番うまい店」を出したラーメン屋に対して文句をつけるのなら、隣のラーメン屋だけでなく、「この町」の全ラーメン屋に共闘を申し込まなくてはならないだろう。
何せ、「この町で一番」というのを比較級表現ととるのなら、そのラーメン屋の隣以外の「この町」の全ラーメン屋に対する比較なのだから。

橋下弁護士の意見:違法ではない

意見の趣旨は「一番」というのは主観的な価値観に過ぎないということである。
確かに、景品表示法において、不当表示に該当する要件に客観性を求めていない。

丸山弁護士の意見:違法ではない

意見の趣旨は「隣の店はまずい」は駄目だが、「うちが一番」なら良いということである。
「隣の店はまずい」の場合、景品表示法第4条違反のみならず、刑法第233条の信用毀損にも該当してしまう。
つまり、他人を謗ったような表現は駄目で、自分を褒めるような表現なら問題ないということだろう。
尤も、景品表示法第4条違反になるような「著しく優良であると示す」ようなのも駄目だが。

総括

「この町で一番」が景品表示法第4条違反となるかどうかは正直微妙な所である。
私は同条第1項第2号が他者との比較級表現の禁止と解釈し、本件のような「一番」という最上級表現は該当しないと解釈した。
ただ、最上級表現も比較級表現の一種と捉えることもできる所で批判の余地がある。
行列のできる法律相談所」の所感を述べたBlogで番組中の法律の事案を取り上げるような所が少ないので、濃い議論がしにくいのだが、数少ないそういう記事を書いている津村巧氏も本件について、不当表示に該当するかどうか曖昧な答えを出している*9
今回は民法の内容ではなく、景品表示法という特殊法の問題であった。

*1:同条第1項1〜15号

*2:不当景品類及び不当表示防止法

*3:コジマとヤマダ電機

*4:コジマ

*5:ヤマダ電機

*6:前述の東京高裁及び前橋地裁判例に同旨

*7:多分、景品表示法か?

*8:コジマとヤマダ電機の場合は「ヤマダさんより安くします!」というような将に比較級の表現だった

*9:津村氏の場合、住田・丸山両弁護士の意見に納得しているようだ。但し、両弁護士は互いに反対の立場である