行列のできる法律相談所

不良生徒が飲酒する所を見計らって取り押さえ、停学にした件に関して慰謝料とれるか

番組の結論は、教師の採った方法は裁量権の範囲内であるとして、教師の当該処分は不法行為に当たらないので損害賠償の請求*1はできないとしている。
私も、停学の原因を作った生徒のやったことは明確な違法行為である以上、著しく不当な処罰でだったり、或いは摘発のやり方が違法でない限り、その教師の行動は正当とするべきである。
これで慰謝料請求とは如何にも権利の乱用*2と思える。

留学した前妻の息子に留年したため、養育費をまた1年払わなくてはいけないか

前妻の息子に養育費として大学卒業までの学費を渡す約束だった。
ところが、真面目に勉強していたにもかかわらず、留年し、もう1年分の養育費を請求された。
この請求は成立するか否かを問われている。

弁護士の回答:丸山弁護士以外は請求に答えなくても良い

私としては、約束の文言に「卒業まで」が条件なので、やはり留年したとはいえ、支払うべきではないかと思う。
一般に契約は、本人同士の意思の合致で成立する。
そして、本件の場合、互いに「卒業まで」という条件は了解している。
父親の側は、留年するというリスクを考慮していなかったが、約束の期限が「大学4年まで」とか「22歳まで」ではなく、「卒業まで」と定められている以上、その条件が満たされるまで、養育費を払わなくてはいけないことになる。
以下、弁護士の回答を検証してみる。

北村:払わない

意見の趣旨は、留年したのは自己責任であるから悪いのは留年した息子であるとしているが、これは話題のすり替えに他ならない。
やはり、契約は単なる約束事とは違い、法的な拘束力を持つので、ここは当初の約束通りにするのが筋だろう。
但し、北村弁護士の補足意見の中で触れられているように、「卒業まで」という曖昧な期限ではなく、「大学4年生まで」とか「22歳まで」など具体的に明記するべきではある。

住田:払わない

意見の趣旨は、留年が想定外だからというのであるが、それは父親の側に立ち過ぎている。
本件の父親がどういう経済状況であるかの説明が全く欠けているが、本当はたんまり金があるのに、ケチをして出したくないと言って、責任回避している可能性も否めない*3
また、父親の側は大学で留年するというリスクを考えなさすぎである。
因みに、大学の留年は概ね8年が限度であるようである*4
それを考えると、いずれは卒業となるので、「卒業まで」の期限が無期限に延びることは考えられない*5

橋下:払わない

意見の趣旨は、養育費は20歳までが原則で留年したのは自己責任であるとしている。
養育費は20歳迄という社会通念的なものを持ち出しても、本件の場合、「卒業まで」という条件があることを忘れてはいけない。
また、こうした民事事件の場合、一般的なことを適用させず、私的自治の原則に従って、具体的事件の特殊性をよく斟酌しなくてはいけない。
橋下弁護士はこの辺をよく理解できていないようだ。

丸山:払う

意見の趣旨は、例えば大学4年までなどと限定していなかったのが悪いというもので、それは前述の私の意見とほぼ同じ。
丸山弁護士の意見は、契約の内容に踏み込んで正しく答えを導いたものとして、私は評価できる。

教師が不埒な私生活を理由に学校を解雇されるのは不当か

学校教師としては全く申し分のない教師であったが、以前から私生活が著しく不埒で、平気で二股掛けたり、人妻相手に不倫したり*6、・借金まみれだったりしていて、過去にも注意を受けたことがあった。
今回は、生徒に一部始終を見られ、学校で噂として広まってしまった。
それを理由に当該教師を解雇できるかというものである。
尚、VTR中に「理事長」という言葉が出てきたので、本件の教師は公立の学校ではなく私立の学校の教師と推測される。

弁護士の意見、住田弁護士以外解雇されない

私としては、以前からいじめの問題の記事を書いたりして独自の教育批判を展開してきた経緯もあり、このような理由での解雇は致し方ないものと思える。
しかし、この教師の問題行動が社会通念上はともかく法規範に悖るものではないことを考えると、解雇ではなく謹慎処分とかでも問題ないのではなかろうか*7
一方、一部始終を見たという女子高生の行動にも問題があると考えられる。
それは如何に不埒な行為であったとはいえ、それをすぐさま学校中に広めたりする行為は名誉毀損*8の疑いが強いと言えるからである。
しかし、未成年者の名誉毀損罪が成立しうるかどうかは、私としては判断が難しい。
但し、その親がこの事実を元に理事長に説得していることを考えるに、親に名誉毀損が成立しうる。
この場合、当該教師が告発者に対して損害賠償を請求することがあり得る。
以下、弁護士の回答を検証してみる。

北村:解雇は不当

意見の趣旨は人格を理由に解雇してはいけないということである。
確かに、人格の問題を理由に解雇できると就業規則に定めたとされれば、畢竟、誰でも馘にできる。
しかし、本件で就業規則の件が一切触れられていないことを勘案するに、就業規則が出てくれば、北村弁護士の意見がひっくり返る可能性もある。
因みに、不倫は問題ないとしている*9

住田:解雇は正当

意見の趣旨は、就業規則に定めがある可能性があるということや、全人格的教育に悪影響の虞ありということである。
就業規則については、本件で出てこなかったので、難しい所であるが、全人格的教育に悪影響の虞ありというのは、私としては最も納得がいく*10
但し、全人格的教育云々は法律の問題というより、道徳の問題である。
一般的に道徳的問題を法律で処理するのかはなかなか難しい。
この辺は法律の限界とも言える。

橋下:解雇は不当

意見の趣旨は、本件の場合は借金や不倫といった犯罪行為ではないで解雇は不当とする意見である。
昭和22年の刑法改正で削除されてしまった姦通罪が今でも残っていれば、橋下弁護士の意見はひっくり返る可能性がある。
それにしても、不倫を行うことに対して何の抵抗感がないのが嘆かわしい。
石田純一が嘗て「不倫は文化」などと言っていたが、私はこれに義憤を覚えた。
戦後、日本人の道徳観が薄れているというのに普段から嘆かわしく思っているが、このようなcrime*11ではなければ、sin*12を犯しても平気という考えが蔓延っている。
このようなsin―或いは「恥」を捨てた日本人は如何にも醜い。
子供達がこういう大人達に育てられるから、その結果、愛国心を押しつけなくてはならなくなるし、いじめの問題も解決に向かわない。
教育者は一般の市井人以上に道徳的にも洗練されていなくてはいけないと言うのが、本件及び昨今のいじめの件とから導き出された私の理想の教育者像である。
因みに、VTR中で当該教師が女子生徒にちょっかいを掛けていたように見えたシーンがあったが、これは本件とは無関係である*13

丸山:解雇は不当

意見の趣旨は、教師も人間だから、この程度は人として当然であるというものである。
余り道徳観念で縛るべきではないと言う丸山弁護士らしい「人情味溢れる」判断である。
不倫に関する意見は橋下弁護士の時と全く同じ。
尚、教育者に一般人より厳しい道徳心を求めることを否定する見方もあるが、未成年を導く義務のある教育者という立場上、道徳的な縛りは当然に存在するべきと考えている*14
また、丸山弁護士は道徳律を守らせすぎると、(1)教育者としての不適格者ばかりとなって教育者不足に陥る危険があることと、(2)そんな堅物からは碌な人間が育たないという意見を述べた。
(1)については、確かに、道徳的に厳しくすれば多くの教育者が不適格者の烙印を押されることは今の教育関係を見れば肯ける。
しかし、今起こっている教育上の問題はそのような本来教育者として不適格な人間が多く携わっているが故に起こっている問題だと考えている。
よって、一時的な人材不足に陥る危険は伴うが、子供達を安心して預けられる教育環境の構築のためにはこのような理由での教育者の大量解雇は致し方ない。
但し、その後に来る教育者については、しっかりとした人権感覚と道徳・倫理観を兼ね備えた人間になるように、制度を変えた上で十分対処可能にしなくてはいけない*15
(2)については、確かに変に道徳的に出来上がってしまったような堅物な人より、多少だらしない人の方が面白いということは珍しくない。
しかし、前述のように、教育者に人格を求める要請がある以上、多少ならともかく、本件の教師のように余りに不埒な場合、例えそれを教育現場に持ち込むようなことがなくても、教育者としては不適格とするのが妥当である。
また、堅物だからといって変に構える必要はないし、堅物と見られるような人の中には結構ユーモアのある人も少なくないのではなかろうか*16
そういう意味において、堅物に育てられると碌な人間に育たないというのは余りに因果関係のない意見であると言える。

総評

今回は少数派の意見で同旨とする意見が出た。
2件目の方で、少し教育者の理想像という事件そのものとはそれほど密接に関わっていないことを説いてしまったが、日本人の道徳観念の低下の一端を見たことなどもあり、弁護士の意見に対する反論という形で取り上げた。
尚、番組の今回のテーマだったゲストなどの学生時代にまつわるトークの件は別のBlogにて取り上げる予定。

*1:民法第709条

*2:民法第1条3項に「権利の濫用は、これを許さない」とある。尤も、これは当件で適用させるものではないが

*3:尤も、VTRの父親は金持ちそうには見えなかったが

*4:ずっと留年したままだと8年目で退学となって今卯が

*5:ただ、8年目に卒業ができずに退学した場合どうするのかが不明なのだが

*6:嘗ては刑法第183条の姦通罪として処罰されていたが、昭和22年の改正で削除された

*7:但し、就業規則(労基法第89条にて作成が義務づけられている)が如何に定められているかによっては解雇事由が正当化する可能性がある

*8:刑法第230条

*9:尤も、北村弁護士は不倫をしていないということだが

*10:いじめの件を通じて教育者の問題を取り上げてきた経緯があるので

*11:法律上の罪

*12:宗教・道徳上の罪

*13:これは単に頼られる良い先生を演出するためのものに過ぎない

*14:つまり、合理的差別である

*15:ただ、今の政権では厳しい注文かも知れないが

*16:共演者の北村弁護士など、その好例といえる