主エル・カンターレ、日本国の新たなる憲法草案を著す
1.始めに
本来なら、これの続きを書くはずだった。
しかし、一部の新聞に「日本国の新憲法草案」なるものを全面広告で掲載するという事件が起きた。
よって、予定を変更して、その批評を行いたい。
嘗て、憲法について、このような記事(同補足)を書いた手前、看過できるものではないと考え、敢えて取り上げる。
2.批評
(1)前文
前文
われら日本国国民は、神仏の心を心とし、日本と地球すべての平和と発展・繁栄を目指し、神の子、仏の子としての本質を人間の尊厳の根拠と定め、ここに新・日本国憲法を制定する。
まず、途轍もなく短いが十分なのか?
それはさておき、如何にも宗教団体らしい前文である。
(2)第1条
第一条
国民は、和を以って尊しとなし、争うことなきを旨とせよ。また、世界平和実現のため、積極的にその建設に努力せよ。
第1条からいきなり国民の義務を出されるとは違和感がある。
それにしても、「争うことなきを旨とせよ」というのは、一種の平和条項である。
つまり、日本国憲法第9条のようなものである。
それを否定してやまない「幸福の科学」としてはこの条文をどう捉えているのであろうか?
(3)第2条
第二条
信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。
国民の義務の次は人権条項のようである。
日本国憲法第20条第1項そのまま。
何故か、信教の自由が先に来ている。
如何にも、宗教団体らしい。
(5)第4条
第四条
大統領は国家の元首であり、国家防衛の最高責任者でもある。大統領は大臣を任免できる。
第3条に続いて、統治機構、それも行政府である。
こちらの記事でも取り上げたが、「幸福の科学」によると、「今の日本国憲法に国家元首が誰であるか不明確故に外国から信頼されていない」という、極めて的外れなことを主張している。
これに答えるかの如き条文であろう。
「幸福の科学」は大統領制による中央集権国家を目指しているようである。
(6)第5条
第五条
国民の生命・安全・財産を護るため、陸軍・海軍・空軍よりなる防衛軍を組織する。また、国内の治安は警察がこれにあたる。
こういう手の条文って、どこの憲法にあるのだろうか?
知っている方がいらしたら、ご教示願う。
敢えて分類するなら、第4条に続いて、統治機構の行政府に属する条文だろうか?
ある意味、日本国憲法第9条に対するアンチテーゼのようだが、そうなると、新憲法草案第1条の平和条項部分と矛盾が生ずることも考えられる。
(7)第6条
第六条
大統領令以外の法律は、国民によって選ばれた国会議員によって構成される国会が制定する。国会の定員及び任期、構成は法律に委ねられる。
いきなり、統治機構の立法府の条文である。
それにしても、「大統領令」とは驚きだ。
ところで、「大統領令」は国会の制定した「法律」とどちらが優先するのだろうか?
(8)第7条
第七条
大統領令と国会による法律が矛盾した場合は、最高裁長官がこれを仲介する。二週間以内に結論が出ない場合は、大統領令が優先する。
そんなことを言ったら、驚くべきことに、何と、「大統領令」と「法律」は基本的に対等の地位にあるらしい。
しかし、「大統領令」の方が優先される可能性が高い。
それまでの法律の常識が覆される驚愕の話なのだ!
(9)第8条
いきなり、次は統治機構の司法制度の条文である。
裁判官は国民によって選ばれるらしい。
民主主義的であっても、立憲主義的ではないようだね。
それにしても、どうやって「徳望のある者」を見分けるのだろうか?
「霊査*1」という謎の儀式(?)でもやるのか?
(10)第9条
第九条
公務員は能力に応じて登用し、実績に応じてその報酬を定める。公務員は、国家を支える使命を有し、国民への奉仕をその旨とする。
(12)第11条
第十一条
国家は常に、小さな政府、安い税金を目指し、国民の政治参加の自由を保障しなくてはならない。
続いては、人権条項だか統治機構だかよく分からない条文である。
ただ、「国家は常に、小さな政府、安い税金を目指し」はともかく、本質的に、これは参政権を表した条文と言えよう。
よって、日本国憲法第15条に相当すると解するのが妥当であろう。
(13)第12条
第十二条
マスコミはその権力を濫用してはならず、常に良心と国民に対して、責任を負う。
まあ、「幸福の科学」は講談社「フライデー」に「宗教心」を詰られた過去がある故に、こんな条文が生まれたのだろうと思う。
しかし、マスコミは所詮公権力ではない。
如何に、「強大な権力」を持っていようと、マスコミを憲法で縛る意味はないだろう。
(14)第13条
一応、統治機構の地方自治を表した条文である。
条文の内容を見るにつけ、「幸福の科学」は第4条のところで前述したように、大統領制による中央集権国家を目指しているようである。
また、第11条を併せて考えると、大統領制による中央集権国家でありながら、夜警国家を目指しているようである*2。
(15)第14条
第十四条
天皇制その他の文化的伝統は尊重する。しかし、その権能、及び内容は、行政、立法、司法の三権の独立をそこなわない範囲で、法律でこれを定める。
これは、天皇についての条文である。
条文中に「三権の独立」とか何とか書いているが、第7条とかを考えると、実質的に天皇は大統領の邪魔をするなということだろう。
なお、本条文中の「法律」とは皇室典範のことと解されるだろう。
3.所感
もう、司法試験受験生の私ですら、ツッコミを入れる気力を失う程の馬鹿げた憲法草案である。
書いた人間は果たして、本当に東大法学部を首席で卒業した人物なのだろうか?と、疑いたくなる代物である。
大体、人権条項が第2条と第10〜11条にバラバラにおかれていたり、章構成が成り立っていない。
如何にも、思いついた順に書き並べてみたという、所謂「チラシの裏」的な憲法草案である。
矢鱈と強い大統領の権限といい、形式的法治主義を採用するというラストの条文といい、第三帝国時代のドイツ*3か!としか言い様のないものである。
尤も、こんな草案は所詮ネタでしかないのだが、まさか、幸福実現党はこの破綻しまくった憲法草案を真顔で薦めるのだろうか?
嘗て、「ザ・リバティ」で日本国憲法第9条改正案を出したことがあったのだが、この時の方が上記の憲法草案に比べて遥かにまともなものだった。
安部晋三氏が内閣総理大臣を辞めてから、憲法論議は下火になり、憲法改正を急ぐ声は全くといっていい程無くなったのだが、こんな破綻しまくった憲法草案を叩き台にして、みんなも色んな憲法草案を考えてみよう。
もしかすると、斬新なアイデアが出るかも?