「幸福実現党」結党

1.始めに

多忙を極め、肝心な時期に速報できなくて遺憾なのだが、先月下旬、宗教法人「幸福の科学」が「幸福実現党」なる政党を立ち上げた。
私はどちらかというと「幸福の科学」に対し、全般的に好意的なスタンスを持っているが、「幸福実現党」の政策は首を傾げるものが少なくない。
というより、嘗て、「幸福の科学」の一般向け月刊誌「ザ・リバティ」で創価学会批判の中で「カルト宗教*1は政権を取らなければ栄えない*2」というようなことを言ったので、「幸福の科学」は政党を作らず、立正佼成会霊友会などと同様に、既存政党の支援団体としてずっとやっていくものと信じていた。
これだけでも十分失望に値することであるが、この政党の政策にはもっと失望させられた。
尤も、可成り昔から「ザ・リバティ」を読んでいた私からすると、ある程度の所までは想定の範囲内なのであるが。
なお、今回は政策面での批評も行うと、長くなり過ぎることが見込まれるため、今回は政局面に関しての批評に留める。

2.結党の経緯と経過

(1)経緯

幸福の科学」による幸福実現党結党についてのことなら、下記の「幸福実現党宣言」という書籍に出ている。

また、その抜粋は幸福実現党のホームページにもPDFドキュメントの形で掲載されている。
要は、「幸福の科学」の公式見解としては「民主党他は言うに及ばず、自民党も最早役立たずである。よって、我々は独自の政党を結党した。」ということのようである。
私個人としては、そのような建前的な理由もあるだろうが、その他にも、以下の理由もあるのではないかと考えている。

  • 自民党が余りにも混迷を極めている状況で、次の総選挙で大敗が見込まれるため、「沈みゆく泥船」からいち早く脱出したいが、民主党などの「左翼」政党に荷担する気はない。
  • 自民党の政治家*3を今まで散々応援し、当選をさせたというのに、自民党は何一つ報いってこなかった。

当初、「幸福の科学」は、麻生政権に対し、「解散を急ぐべきではなく、日本がリーダーとして世界の金融危機を救え。」と主張していた*4
しかし、マスコミや「知識人」などの執拗な政権批判や内閣要人のスキャンダルで精神的に参っているのか、麻生政権はその主張に答えることも出来ずに、只ひたすら任期切れまで迷走している状態が続いてしまっている。
ここまで来ると、流石に「幸福の科学」は麻生政権及び自民党を擁護する気力がなくなり、遂には自民党を見限るようになったのではないかと思われる。
これが、1つ目の「理由」の根拠である。
また、「幸福の科学」は1995年頃から、創価学会の政党「公明党」の違法な選挙活動*5の対策と称して、創価学会と仲の悪い政治家*6を所謂「勝手連」を組織して応援し、当選させた実績がある。
なお、「幸福実現党」結党時のマスコミ記事では、当時の「ザ・リバティ」で取り上げられた馳浩氏ではなく、義家弘介氏や丸川珠代女史などを当選させた実績があることが記載されていた*7
ただ、こうした「幸福の科学」による「勝手連」活動において、自民党は放置乃至は無視を決め込んでいたと思われる。
この状態に我慢の限界を感じた、「幸福の科学」は自民党にその存在をアピールする目的で、麻生政権の迷走ぶりを理由に、自前の政党を持つに至ったのではないのかと考えられる。
これが2つめの「理由」の根拠である。

(2)経過

幸福実現党は「責任政党」を称している。
結党当初、幸福実現党の党首は饗庭直道氏だったが、6月4日に突然、党幹部が刷新*8され、大川隆法総裁夫人のきょう子女史に党首が替わった。
また、第1次公認候補の内、東京12区に擁立予定だった佐藤直史*9が北海道の比例ブロックに回り、饗庭直道氏に替わっていたりと、1ヶ月も経たないうちに人の入れ替えが起きている。
こんなことでは、また1ヶ月経った後に候補者や党幹部を入れ替えたりするのではないかと、有権者を不安がらせているような感じである。
有権者の視線を向け続けさせるためにもそのような人事異動を行っているような感じである。
これでは「責任政党」を名乗る資格はないように思える。

(3)候補者の顔ぶれ

総選挙の日取りが8月末であることが麻生政権によって示唆された。
そんな中、幸福実現党は結党から1ヶ月も経たないうちに候補者を300人近く集められるのかが疑問視されたが、蓋を開けたらびっくり。
何と、第3次公認候補者の名簿を見ると、ほぼ全国の小選挙区及び比例代表の候補者がびっしり埋まっていた。
ただ、候補者の肩書きを見ると、殆どが幸福の科学の職員ばかりである。
一応、一般からの公募は行っているのだが、幸福の科学と無縁な候補者は見受けられないような気がする。
なお、漫画家のさとうふみや女史が麻生総理の選挙区である福岡8区*10から出馬する以外は、ミュージシャンの河口純之助氏や「杉並一のワル」で現在はフリーライター与国秀行氏などの著名人はどういう訳か、小選挙区からの出馬はなく、何れも比例代表枠での出馬である。
河口純之助氏はともかく、与国秀行氏は所縁のある東京8区*11小選挙区候補として出馬すれば善戦しそうな感じがするのだが…。

3.選挙の予想

こんな幸福実現党であるが、「幸福の科学」が主張するように過半数議席を占めて、第1党になりうるのだろうか?
私は、それは無理である見ている。
政策面での理由もあるが、ここではそもそもの党の性格や採るであろう戦術といった政局面から予想を分析してみたい。

(1)理念先行型の政党

幸福実現党の政策は基本的に昔から大川隆法総裁や「ザ・リバティ」での政策提言に基づいており、これらをよく知る私から言わせると、「天皇制の実質廃止」以外は昔からの主張そのままである。
つまり、幸福実現党は、自民党民主党のように政党としての個性を持たず、党首の考え1つで右にも左にもぶれる政党ではなく、共産党のように党としての主張・矜持を持ち続け、党首が替わっても主張にぶれが生じない政党である。
1ヶ月も経たないうちに党幹部が交替しても、政策が全然変わっていない所からも、幸福実現党共産党と同じ理念先行型の政党ということが証されている。
尤も、幸福実現党共産党とでは政策が全く反対なのが多いのだが。

(2)小選挙区では個性のない候補者のため、負けが続く

こうした理念先行型の政党の場合、比例代表では強いが小選挙区に弱いという現象が見られる。
実際、共産党小選挙区に立候補させる候補者を一定させていない。
東京5区*12共産党の第41〜45回総選挙の立候補者を見ると、こんな感じである。

第41回 渡辺信次
第42回 宮本栄
第43回 宮本栄
第44回 星見定子
第45回 宮本栄

一応、宮本栄氏が立候補する確率が高いものの、第41回や第44回の時を見ると、全く別の人が立候補している*13
通常、小選挙区で勝つためには、所謂3つの「バン」―「ジバン(地縁)」・「カンバン(知名度)」・「カバン(肩書き乃至は経歴)」が必要不可欠である。
特に、自民党民主党のような党員が様々な思惑で政策を持ち寄る政局先行型の政党の場合、公認候補は原則、地元出身者とする傾向があり、更にはその候補者を移動させることは滅多にない。
それは、地域社会に溶け込めないと、「ジバン」が構築できないからである。
本質的に国政において、地域社会との縁はどうでもいい代物だが、政局先行型政党の場合、地域の声を国政に反映させるのに適している。
そして、小選挙区制がある限り、どこの地域でも、党の主張よりも候補者個人の主張の方が重要であり、地域に恩恵をもたらすような候補者に票が集まる傾向がある。
しかし、物事には例外もつきものである。
例え「ジバン」がなくても「カンバン」や「カバン」のある候補者なら、当選する可能性がある。
所謂「タレント議員」や党幹部を経験した大物政治家などがそれである。
最近の事例だと、東京10区*14郵政民営化反対勢力に向けて放たれた「刺客」の象徴的存在である小池百合子女史がそれに該当する。
小池百合子女史は東京10区を擁する豊島区及び練馬区の一部地域に地縁は全くないのだが、「ワールド・ビジネスサテライト」などでキャスターとして活躍した女子アナ出身という知名度の高さと2003年には環境大臣に就任したという大臣経験者という経歴を武器に、所謂「小泉旋風」に乗ったような形ではあるが、圧勝した。
それに比べると、共産党などの理念先行型の政党の場合、候補者の地縁は重要視されておらず、知名度のある候補者にも恵まれておらず*15、経歴も弁護士出身か党の要職経験者ぐらいしかいない。
このことから、理念先行型の政党は小選挙区に弱く、特に、新しく出現したばかりの幸福実現党にとっては厳しい戦いの連続になると見られる。

(3)比例代表ではどうか

ただ、党としての主張がはっきりしている政党はその政策に賛成できるのであれば、比例代表での得票が大いに期待できる。
しかし、それでも日本人の多くは自民党民主党にしか興味がなく、政策での支持ではなく、政局への関心で比例票をどちらかの政党に振り分けている気がしてならない。
まあ、これは理念先行型の政党が今までは共産党しかなかったからということが大きいのかもしれないが。
しかし、今回からは「左」の理念先行型の政党(共産党)のみならず、「右」の理念先行型の政党である幸福実現党が登場しているため、それまで「惰性」で自民党に投票していた有権者の一部が幸福実現党に票を入れるようになる可能性は高い。
特に、「幸福の科学」の信者*16が一気に流れることは火を見るよりも明らかである。
そうなれば、東京では10〜20議席、大阪・名古屋では各々5〜10議席ぐらい確保できると思われる。
ただし、現状の公認候補者リストを見ると、小選挙区比例代表を兼ねている候補者は見あたらないし、東京ですら、今のところ、5人程度しかいないし、近畿ブロックでは6人、東海ブロックでは3人しかいないので、これら3ブロックで全員当選だとすると、14議席となる。
尤も、近畿ブロックや東海ブロックの場合、大阪や名古屋以外の地域の比例票も影響するから、全員当選は難しい。
近畿ブロックなら2議席、東海ブロックなら0〜1議席となると思われる。
その他に、当選が可能そうなのは北関東ブロックと南関東ブロックで各1〜2議席、北陸ブロックで1議席ぐらいで、その他は全滅となることが考えられる。
「都市型政治家」を割と最近*17の「ザ・リバティ」で提言しただけに、大都市圏では強いが、地方では滅法弱いということは簡単に予想できる。

(4)他政党への影響

他政党―とりわけ自民党への影響は決して小さくない。
幸福実現党自体は高々20議席前後しか取れないだろうと見られるが、問題は他の政党への影響である。
今度の総選挙では無党派層の多くが小選挙区比例代表民主党の候補者に投票する傾向が見られるため、「幸福の科学」の信者やシンパでない限り、幸福実現党へ流れる可能性はない。
そもそも、「幸福の科学」の信者やシンパは支持政党が自民党だったような連中なので、所謂「無党派層」には含まれないのだが。
勿論、元々の支持層から外れる共産党社民党公明党の当落予想には影響しない。
影響が一番大きいのは、何と言っても自民党である。
前述したように、これまで「幸福の科学」は自民党の候補者*18に「勝手連」の形で支援してきた。
特に、組織票を持たないタレント候補のような知名度先行の候補者にとっては「幸福の科学」の陰の組織票は大きな旨みとなっていた。
今回、それが無くなる訳だから、地縁の薄い選挙区に宛がわれた所謂「小泉チルドレン」は苦戦を強いられる。
そのことを知ってか知らずか、東京5区の落下傘で「小泉チルドレン」の最右翼である佐藤ゆかり女史は選挙区内の企業経営者などを相手に、2016年オリンピック開催地誘致運動などとリンクしたような政治活動を推進している。
これも、地縁の強い民主党の候補者手塚仁雄氏に追いつくためというより、考え方の合う「幸福の科学」からの支援が受けられなくなったことの危機感がそうさせているのではないかと思われる。
ただ、このような涙ぐましいまでの必死の努力をしても、「小泉チルドレン」の多くは惜敗率の悪さから比例復活も果たせずに敢えなく落選しまくると、私は予測している。
これは、幸福実現党によって、自民党に流れると期待されていた票の一部が殺がれたことの影響であると見られるであろう。
そうなれば、今度の総選挙では民主党が余裕で過半数に近い議席を獲得し、待望の(「幸福の科学」にとっては不愉快な)政権交代が起こる可能性が俄然高まることになる。

3.憲法第20条との関係

宗教団体による政党が出現した場合、よく問われることに憲法第20条との関係であるが、憲法国家権力を制限して国民の権利・自由を守るものであるため、この条文は国家による宗教活動の制限と見るべきであり、宗教団体による政治活動の制限と見るべきではない。
既に、創価学会公明党という政党組織を持って長く活動し、公明党に解散命令が出たことがないことを鑑み、幸福実現党自体は憲法上の問題はない。
精々、幸福実現党は数ある政治団体の内の1つであり、これは憲法第21条の結社の自由で保障されているようなものである。
つまり、幸福実現党が単独与党になった場合において、初めて憲法第20条との関係で問題視されるべきである。
尤も、幸福実現党が単独与党になる可能性は今の日本人の性格を考えると、まずもって無いと見ている。
仮に、与党になったとしても、今の公明党のような立場の連立与党として振る舞うに留まるだろう。

*1:ここでいう「カルト宗教」とは、創価学会オウム真理教(現・アーレフ)、統一協会などを指す。

*2:正確な文言が思い出せない…。

*3:それも清和会(町村派)。一部、著名人の無派閥も。

*4:「ザ・リバティ」2009年7月号29ページの「年表」中にて、「法話」の内容として記述されている。

*5:創価学会員による「戸別訪問」といった違法な選挙活動について、多くの摘発例があることは北芝健氏の「警察裏物語」にも記述されている。

*6:ただし、馳浩氏など自民党の特定の派閥に所属している政治家に限られる。

*7:その他、「無所属」で立候補した千葉県知事の森田健作氏も有名。

*8:更迭とも言えそう。

*9:嘗て、創価学会に所属していた

*10:直方市飯塚市中間市宮若市嘉麻市遠賀郡鞍手郡嘉穂郡

*11:杉並区

*12:目黒区及び世田谷区の一部

*13:因みに、第41〜44回において、自民党小杉隆氏、民主党手塚仁雄氏がずっと立候補を続けている。

*14:豊島区と練馬区の一部

*15:特に共産党の場合、所謂「タレント議員」が見受けられない。

*16:「会員」と称している。

*17:2009年3〜4月頃?

*18:森田健作千葉県知事も含む