新郎のPS3本体と「ウイイレ」を勝手に売った友人に非難殺到

2.事件概要

ある新婚夫婦のゲーム中毒の新郎Aのゲーム機を盗もうと考え、新婦甲と友人乙が共謀して、Aが式の前日に外泊している間に乙がA宅に侵入し、ゲーム機「Playstation 3(以下PS3)」と専用ゲームソフトウェア「ウイニングイレブン(以下ウイイレ)」を持ち出し、リサイクルショップに転売した。
さらに、式当日、乙はAのPS3ウイイレの買い取り査定金額を当てるクイズを実施した。
甲と乙の罪責を論ぜよ。

3.答案構成(?)

「2.事件概要」の書き方が司法試験の刑法論文問題風になってしまったノリで、当項のタイトルが「答案構成(?)」になってしまっている。

(1)「2.」前段について

さて、当該事案であるが、「1.ニュース記事・関連リンク」記載のYahoo!知恵袋のリンク先において、多かった意見に「これは犯罪なのでは?」というのがある。
事実、当該事案は「2.」前段のみであるが、立派な窃盗事件と言える。

(窃盗)
第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

友人乙の行為は将に、新郎Aという「他人」のPS3ウイイレという「財物」を「窃取」即ち盗み出したのであるから、刑法第235条に定められた窃盗に該当する(構成要件クリア)。
なお、単に法律上の犯罪が成立したからと言って、即座に故意犯が成立する訳ではなく、違法性阻却事由や責任を検討することになるが*1、ここでの趣旨は甲及び乙の取った行為が刑法上の犯罪を構成するということを述べることにあるので、構成要件の検討に留めておく*2

(2)「2.」後段について

なお、一部に「2.」後段の行為が名誉毀損だという意見もある。

名誉毀損
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

しかし、本件の場合、新郎Aの所有物の査定価格を表示したものであり、新郎Aに関する「事実」を「摘示」とはいえない。
また、新郎Aの所有物の査定価格の表示が新郎Aの外形的名誉(=社会的評価)を毀損するものとはいえない。
したがって、名誉毀損は不成立である。
ならば、侮辱罪は成立するかということであるが、条文を見る限り、成立するように思える。

(侮辱)
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

しかし、侮辱においても、保護法益名誉毀損同様に、外形的名誉とするのが判例・通説の立場であるから、これも成立しない。
なお、一部学説は侮辱に限っては名誉感情が保護法益に当たるとする立場もあることを付け加えておく*3

(3)結論

要するに、甲及び乙の行為は窃盗罪を構成する行為であるということであり、Yahoo!知恵袋の内の「本件は窃盗に該当する」という多数意見(?)は妥当である。
しかし、名誉毀損(及び侮辱)は構成要件を満たしておらず、これは不成立である。

4.所感

(1)自分が新郎Aの立場なら…

刑法の論文問題(?)はさておき、私がこの新郎Aの立場にいたのならば、怒り心頭に発し、怒髪天に衝く勢いで警察に被害届を出すであろう。
但し、新婦甲の場合、刑法第244条1項の親族間の犯罪に関する特例に該当するため、不可罰なのではあるが*4
私自身、これほど酷くはないが、限りなく近い嫌がらせを高校以前においては数多く受けたことがあり、正直、トラウマにもなっているようなことである。
窃盗罪或いは名誉毀損、侮辱罪成立・不成立の如何に関わらず、不愉快な話であるというのが、私の偽らざる感情である。
よって、私は「ナシ」とする。

(2)ゲーム機内の個人情報漏洩の危険性について

一部にゲーム機内の媒体*5に記録されている個人情報の漏洩を憂う声があるが、当blogの取り扱い範囲を超えることと、当記事の文量が多くなり過ぎることが考えられるため、これについてはホビー系blogにて別途論ずる。

5.後日談及び当該関係者の見解

なお、新郎Aは私のような直情径行で気弱な人間とは異なり、精神的にタフな人物のようである*6
また、当該窃盗事件を計画した新婦甲及び友人乙はこの新郎Aの性格を熟知しているのか、「笑って済まされるレベル」だと解していたようである。
ただし、Yahoo!知恵袋に質問を投稿したyjchiebukuro_mintena氏他関係者は冷や汗ものであったという。
その後、新郎Aは新品のPS3を結婚祝いにプレゼントして貰い、その後、夫婦生活が円満と言うことなので、外部の人間がとやかく言う程の事件には発展しなかったようである。
Yahoo!知恵袋の質問に回答(というより意見)を述べた者達の心配(?)を余所に幸せに過ごしていて、一安心である。

*1:厳密には、故意が不成立であるなら、過失犯の検討も行う。

*2:なお、新婦甲の場合、刑法第244条1項の親族間の犯罪に関する特例も成立する。

*3:2006/12/13「行列のできる法律相談所(2)」ではその学説での論述展開になっていた。

*4:不可罰は「刑の免除」であり、「無罪」ということではない。

*5:PS3の場合は2.5インチハードディスクドライブ

*6:ウイイレのアジアNo.1にもなる実力者は精神も強いのか!?