行列のできる法律相談所

娘の同棲相手に家賃・光熱費は取れるか?

父親が娘の所に来たら、見知らぬ男がいた。
この彼氏との同棲は娘との合意あってのもの。
しかし、父親は仕送りを娘に対してしていたつもりなので、そのことは与り知らない。
更に、同棲している彼氏は生活費を払っていない。
果たして、父親はこの彼氏から生活費は取れるか?

弁護士の判断:住田弁護士以外取れない

彼氏を家に住まわせているのは娘の意思なので、父親は損害賠償を請求できないというのが番組の結論である。
娘の年齢が出ていなかった*1ので、成年者か未成年かによって判断が分かれる。
仮に、娘が未成年だったら、財産処分権は親権者にあると解される*2ので、同棲した彼氏から生活費を取ることができる。
一方、娘が成年者だったら、財産処分権は本人にあるので、仕送りとしてお金が父親から娘に贈与された以上、父親は彼氏から生活費を取ることができない。
以上が私の意見である。
以下、弁護士の意見を見てみる。

北村弁護士の意見:取れない

意見の趣旨はこれは感情論であるということである。
余り詳しくツッコんでいないが、丸山弁護士と同旨ともいえる。
尚、不当利得を主張した住田弁護士の反論にて、これは不当利得に当たらないと主張。
2人の意見が真っ向からぶつかっている。

住田弁護士の意見:取れる

意見の趣旨は娘への仕送りは扶養義務*3の一環での支払いであり、父親の行為は彼氏の不当利得の請求*4であるということである。
こちらは、私の意見だと未成年である場合に似ているが、仕送りに扶養義務の性格があるとは思えない。
仕送りは一種の贈与契約*5であるから、ここは民法第824条の親権者の財産管理を根拠にするべきではなかろうか。
つまり、彼氏に対する不当利得を主張するのも親権の範囲ということである。

橋下弁護士の意見:取れない

意見の趣旨は仕送りの処分権は娘にあるので、不当利得にならないということである。
ハングマンのマイトさん*6でも取れないとのこと*7
でも、ハングマンのマイトさんと言われても何のことだか皆分からなかった*8
意外とマニアックな橋下弁護士である。
こちらは、私の意見において娘が成年者の場合とした場合に同じである*9

丸山弁護士の意見:取れない

意見の趣旨はこれは法律以前に父親の教育問題であるということである。
つまり、あんな彼氏を選ぶように教育した親が悪いということか。
結論はさておき、理由付けはちょっと納得できかねる。
もう少し、法律家らしく意見の根拠付けをして欲しいものである。
因みに、その「法律以前」という親権者の義務として「教育」がしっかりと民法第820条に定められている。

新庄剛志*10の本が本人に無断で出版されている事件

今日、私が受けた「.com Master ★★」の試験でもパブリシティ権が試験範囲に含まれていたが、将に本件は典型的なパブリシティ権の侵害である。
尚、本件のようなパブリシティ権を認める判決は比較的最近に出たものである*11ため、未だ正式なガイドラインができていないようである*12
因みに、「物」*13にはパブリシティ権が認められていない*14

上司とのトラブルで叩き付けた辞表を取り下げられるか?

相談者は難癖ばかり付ける上司に悩まされる。
上司が子供の写真を見て言った悪口にキレて辞表を叩き付けたのだが、1時間経たないうちに取り消しを申し出た。
しかし、上司は直ぐに人事部に辞表を提出し、撤回不能であることを主張する。
果たして、辞意を撤回して、会社に戻ることができるのだろうか?

弁護士の判断:半々に分かれた

一応、番組の結論は辞めなくてはいけないになった。
感情的なことを斟酌すると結構難しい問題である。
弁護士の意見の中に意思無能力とかの話も出ていたが、意思無能力状態に陥っていると言えるのは、泥酔しているとか重い精神病に罹っているというときだけなので、本件のようにちょっと感情的になった程度では適用できない。
そして、意思表示のプロセスに(1)動機、(2)効果意思、(3)表示意思、(4)表示行為というのがあり、これを本件に当てはめると、(1)動機としては上司の悪口に悩まされ続けた、(2)効果意思としてはいつか辞めてやろうと思っていた、(3)表示意思としては折を見て辞表を書こうとした、(4)表示行為としては子供の悪口を言われたときに辞表を書いたということになる*15
本件のVTRを見る限り、(2)効果意思と(3)表示意思に関して何も触れられていなかったが、(1)動機と(4)表示行為は明白である。
また、当該相談者は結婚して家族がいる以上、成年者である*16
よって、意志能力及び行為能力の何れも備えているので、辞表は有効である。
一方、錯誤*17について検討してみると、当該相談者が感情的になっていたとはいえ、本心に反して辞表を書いたとはVTRを見た限り思えないので、やはり成立しない。
よって、錯誤は成立せず、辞表は有効となる。
つまり、私の結論は、感情論を抜きにすると相談者は会社を辞めなくてはいけないということになる。
尤も、上司の嫌がらせに関して、その上司が公然と人を侮辱している以上、明らかに侮辱罪*18が成立するが、本件の相談者が会社を辞めるべきか否かとは無関係であることを付け加えておく。
以下、弁護士の意見を見てみる。

北村弁護士の意見:辞めなくてはいけない

意見の趣旨は合意解約が成立した以上撤回できないということである。
相当悩んでいたので、軽率な意思表示ではないというのは、前述の私の意見の根拠と同じである*19

住田弁護士の意見:辞めなくてはいけない

意見の趣旨は受理したら撤回不能ということで、北村弁護士に同旨。

橋下弁護士の意見:辞めなくて良い

意見の趣旨は上司の悪口が悪く、上司はその辞表を受理をしてはいけないということである。
つまり、上司の錯誤ということだろうか。
しかし、上司にしてみれば、予てより気に食わない部下が辞めることから、その錯誤を追認するものであるが。
結局、辞表を受理したことで契約*20が成立してしまう。
辞表の受理を拒めというのは道義論であり、法律の問題ではない。

丸山弁護士の意見:辞めなくて良い

意見の趣旨は喧嘩が原因であるので辞めなくても良いということである。
「法律は人情も絡めて判断するべき」という丸山弁護士の立場も明らかにした。
私は、法と人情はある意味相反するものだと思う。
その辺に法律の限界というものがあるが、これは法としての宿命なので、受け入れる他ない。
人情での解決なら法律家ではなくフィクサーの役割だと考えているのが私の意見である。
ただ、丸山弁護士の論拠を尊重すると、本件が喧嘩によって本心とは異なる意思表示があったという形に持ち込むことが可能ではある。
つまり、心裡留保*21を主張することになる。
この場合、相手*22の悪意乃至は善意有過失*23と相談者が辞表を提出する行為が真意に基づくものではないということを証明しなくてはいけない。
先ずは、上司の悪意即ち意図的に辞めさせるという明確な意思について検討してみる。
VTRの中において、上司の嫌がらせの根拠が明確ではないのだが、上司の嫌がらせがリストラか何かの一環で、相談者の辞意を促すものであれば悪意*24であるし、或いは単なるからかい程度のものが発展したようないじめの場合でも、辞意を促す結果になることになっても構わないと上司が考えていれば善意有過失となり、これらの場合のみ心裡留保が成立しうる。
また、辞表を受け取って直ぐに人事部に提出したとなると、これで善意無過失というのは説得力が欠ける。
何故なら、善意無過失ならば、部下の辞意に気が付いた時点でその撤回を促す行動に出るのが一般的であるからである。
次に、相談者の行った辞表提出の行為が真意に基づかないということについて検討してみる。
こちらは、相談者が本当は辞める気がなかったのに、上司が自分の子供に対する悪口を言ったが為に腹を立てた余り、感情的になって辞表を書いたという可能性はあると考えられる*25
但し、この辺はVTR中に細かな描写がなかったのでどちらとも言えなく、心裡留保の成立の余地を残すのみである。
よって、VTR中にないことについて多く忖度するのはかなり軽率な判断と言え、私はこの説を採らなかった。

総論

今週は新庄剛志スペシャルゲストとして出演して盛り上がったが、こちらの内容は別のBlogにて触れる予定。
今回の案件は、橋下弁護士が先週とは打って変わってかなり筋の通った意見を出した印象がある。
また、私の意見とは反対意見も結構筋が通っていて、補足的批判はあっても、真っ向からの批判はなかった*26
尤も、法律的判断から逃げているような場合は除くが。
余談だが、今回の新庄剛志ブレスレットのプレゼントは贈与契約という片務契約・無償契約・諾成契約である。

*1:確認し損ねたのかもしれないが

*2:民法第824条

*3:民法第820条

*4:民法第703条

*5:本件の場合、父親から娘への贈与

*6:ゲストの黒沢年男に因んでいる

*7:橋下弁護士が無意味に強調

*8:私も知らない

*9:但し、ハングマンは全く関係ない

*10:今回のスペシャルゲスト

*11:北村弁護士も類似の案件を扱ったことがあったという

*12:でも、「.com Master ★★」のテキストだとかなり確定的なガイドラインがあるような印象を受けたが

*13:競走馬など

*14:これは、パブリシティ権プライバシー権のような一種の人格権という解釈があるからだろう

*15:これは後述の北村弁護士の意見の根拠でもある

*16:20歳未満でも結婚していると民法第753条において成年者として扱われる

*17:民法第95条

*18:刑法第231条

*19:しかし、これはVTR中にない描写であり、反対意見の余地がある

*20:この場合は相談者が会社を辞めること

*21:民法第93条

*22:この場合は上司

*23:民法上の「善意」「悪意」は一般の意味とは異なるので注意。
「善意」は事情を知らないことで、「悪意」は事情を知っていることをそれぞれ指す

*24:ここでも「悪い意志」ではなく「事情を知っている」という意味。
尤も、本件の場合、両方の意味が重なり合ってややこしいが

*25:こちらは前述の北村弁護士の根拠(予てより会社を辞めようかと悩んでいた)に対する否定でもある

*26:1件目については娘の年齢が条件になっているから「どちらとも言える」状態だが